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杳子の帰る日
別冊マーガレット 1977年10月号に掲載。
掲示板での募集に、けろここさんからいただきました。
けろここさんに感謝。


 喫茶店に勤める18歳の娘、杳子。ある日店に、常連の編集者である「計」が、杳子の小説が準入選したとの知らせを持ってくる。杳子に好意を寄せる「計」は、彼女の第一歩を心から祝うが、少女らしからぬ深刻な内容の話であることに、とまどいも覚える。
 杳子の小説は、貧しい漁村の娘が主人公。貧困と、酒乱の父に絶望し、一家心中を計る。父母は死ぬが、娘と、幼い弟は生き残ってしまう。娘は、弟を残し村を飛び出す。各地を転々と生きる娘だが、心はいつもふるさとへ帰りたい、帰りたくないが帰りたいと叫んでいる。結局は、都会でも傷つき、自殺とも事故ともつかない形で死んでしまう。
 迫力ある文章、読み手を引き込む筆力、と絶賛されるいっぽう、悲惨でやりきれない、救いが無さ過ぎる、若者にありがちな悲劇趣味、と酷評もされる。
 これに対し杳子は、この作品は心の叫びであり、甘い救いなど必要ないのだと言い切る。
 その頃「計」は、編集者として杳子の魅力を引き出してやりたいと、特集を組もうとする。だが杳子は「計」ばかりでなく、すべての取材を拒み続ける。
 「計」は独自の調査に乗り出し、杳子のふるさとへと向かう。そこで彼は、杳子の中学の教師に過去を聞くことになる。そして、あの小説が事実を元にしていると知る。小説と異なる点は、死んだのが父だけだったことと、弟だけではなく妹もいるということだけだった。
 「計」は衝撃を受けつつも、杳子を守るため事実を隠そうと決意。だが、その思いやりも空しく、杳子の過去は、別の雑誌にすっぱ抜かれる。
 杳子を案じて駆けつける「計」。その胸で無き崩れる杳子。「誰よりも計さんには知られたくなかったのよ。」と言う杳子に、「知っていたよ。」と告げる「計」。二人の心は通い合う。
 記事の影響で、杳子の勤め先の喫茶店には、連日野次馬が押しかけるようになる。店への迷惑、そして何よりも、彼らの好奇の目に耐えられなくなった杳子は、ある日黙って旅立つ。
 行き先は、あれほど帰りたくて帰れなかったふるさと。どこにいても癒されぬものならば、せめて安らぐのはふるさとしかない。
 その心を知った「計」は、いつか自分が迎えに行く日まで、そこで少しでも杳子が癒されることを願うのだった。


けろここさん的考察

 杳子のふるさととして、みかん山の情景が出てくるのですが、山いっぱいの真っ白なみかんの花、むせ返るような花の香りのイメージが強烈でした。一度本当のみかん山が見てみたいです。



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