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7000回の朝
別冊マーガレット 1978年2月号に掲載。
掲示板での募集に、けろここさんからご提供いただきました。
けろここさんに大感謝。
「6000日の愛」の続編。
顔も覚えていないほど早くに父を亡くし、母と二人暮しの若子。物語は、そんな二人のいつもどおりの朝から始まる。
朝食も抜きで慌ただしく出勤する母。まったく、ママったら・・と呆れる若子は、ふと母の残り香に気づく。それは「タブー」というトワレだった。
その日、若子のクラスに転校生が来た。鎌倉からの、物静かな美少女は「三上真帆」といった。母を亡くしたばかりと言う彼女と、若子は親しくなっていく。
真帆は、出版社の編集部長の父と、大学生の兄との三人暮らし。鎌倉から引っ越したのは、亡き母の思い出が溢れて辛いと、父が言ったからだった。若子はそれを聞いて感激し、「きっと変わらずに愛してたのね。うちのママみたいに。」と言う。
お互いの家に親しく行き来するようになった二人だが、その影で若子の母が真帆を見て、そして真帆の父が若子を見て、何故か衝撃を受けていることには気づいていなかった。
そんなある日、若子は真帆と、その兄「深」と遊びに出かけていた。そしてその帰り、「深」に家まで送ってもらうのだが、そこで思いがけない光景を目撃する。そこには玄関から出てくる母と、母の肩に手をかけて寄りそう、真帆の父の姿があったのだ。
若子は母を問い詰める。だが母は、「ずっと昔のお知りあいよ。奥様も知ってたわ」とはぐらかすばかりだった。
仕方なく若子は、今度は「深」に尋ねる。「深」は、物心つく頃、父母の元へときどき訪れていた美しく陽気な婦人がいたことを話してくれた。大好きだった、その人のどこか哀しげな香り。大人になってから、父が思い出語りで、その人を愛していたが精一杯友人として接したのだと打ち明けられたこと・・・・。
これを聞いてショックを受けた若子は母に思いをぶつける。「パパはママにとって何よ。あのおじさまを取れなかったので、我慢したの?」「あのトワレつけて毎日・・おじさまのためでしょ!真帆さんたちのお母様が亡くなって喪も明けないのに。ま、まってたの?」「教えてよ。あたしのパパは誰? もしかして、もしかして、おじさ・・・・」激情する若子の言葉は、平手打ちで止められる。母は泣きながら若子を抱きしめる。
「だめよ。そんなことは命かけても言ってはだめ。」「あなたのパパは、ママの夫です」と言いながら。
数日後、二人は一緒に真帆の家を訪れる。そこで若子は、真帆の父の話を聞く。
「君のお母さんは素晴らしい人だ。惹かれる男性がいるのは当然のことだよ。でも、私たちは一度も心を伝え合わなかったんだよ。互いに痛いほど判っていたけど、そうしてはいけないんだと踏みとどまって、必死で友情に昇華させていた。最後に、そんなお母さんを支えたのは、君のお父さんだ。二人は心から許しあい、愛しあい、私にはもう入れなくなった。」「東京に来て偶然会ったけど、家も教えなかったよ、お母さんは。君に聞いて、懐かしさのあまり押しかけたのは私だし。」
初めて知る母の姿に若子の心も解けていく。
場面変わって、海辺を歩く若子と母。ひとりの女として言葉をつづる母。
「愛していたわ。それは本当よ。・・・でも、めちゃくちゃにこらえたわ。タブーってね、禁じられた掟。自分で自分を留めるために、あのトワレつけてたの。」何故、まだトワレをつけるのと問う若子に母は、「お互いに亡くなった人を忘れられないから。だけど、それだけじゃないの。若子がいるから、しっかりした人でいたいの。タブーは、おまじない」と答える。そんな母を若子は心から許し、認めるのだった。
その翌朝。
寝過ごした若子が慌てて母を起こしにいくと、母が化粧台につっぷして眠っている。
・・・・こんなふうに泣き疲れて、20年近くの7000回もの朝を迎えたのでしょうか? ママ・・・という名の一人の女性・・・。
そして若子は涙の残る横顔に、そっとキスをするのだった。
けろここさん的考察
大人っぽい話ですよね。複雑な人間心理が描かれていて。読んだ当時はあんまり面白く感じませんでした。でも、今読むと、深い〜。
しかし、市川ジュン先生の登場人物って、言葉づかいが上品ですよね。普通の家庭で、よその人を「おじさま」とか「○○さんのお母様」なんて言いませんよ。この話じゃないけど、よく子供が親のことを「おかあちゃま」「おとうちゃま」と呼んでいることも多いし。それが独特の雰囲気で、印象強いですな。