蒼き野の果て
別冊マーガレット1978年4月号に掲載。
愛は初めてサロベツ原野を訪れた。
いとこの夏子と、滞在先の氷見家の宇多さんに迎えられた彼女は、ちょうどその時、一人の青年と出会う。湿原に排水路をひくことに対立している側の青年、風間征。
氷見家は遠縁にあたる家で、天塩地方一帯で最も広大な土地を持つ大牧場主で、当主は先代の一人娘、独身の希詩子だった。36歳とは思えない「凛として透明な」この女性は、愛や夏子のあこがれの女性だった。
翌朝、愛は裸馬に乗る征と出会う。言葉を交わす訳ではなく、彼はただ通り過ぎていくだけ。朝食の席で宇多や希詩子に訊ねると、彼が小さい頃に火事にあったとか、両親が居ないなどのことを教えてくれる。あちこちの牧場で仕事を請け負っている彼は、この氷見家の牧場にも来て、希詩子はその彼を何かと気遣っているらしい。無口で粗野で人嫌い…決して彼はこの地方の人々によく思われてはいなかった。
愛は征に接近する。「ほんとうは なぜ あなたにあうとどきっとするのか確かめたかったの」だけど「ずっとそばにいたにとてもおちついていられたわ おかしいわね」
ある日、愛は夏子から、独身の希詩子に子供が居る、という噂を聞く。20歳の頃に産んだ子供―――夏子は征がその子供ではないか、と疑っていた。
愛は時々征の居る小屋へと出かけていく。だが村で彼女と会っても彼は知らんぷりをする。自分が疎まれていることを彼は知っていた。十年前に火事を出したのは、彼の父親だった。その火事は大規模で、よその牛や馬まで焼いてしまった。人が少なく、事件が少ないこの田舎で、皆それを忘れない。
一方、希詩子は愛が征と接近していることに衝撃を受ける。彼女は征に近づかないように、と忠告する。それを聞いた愛は憤る。「あのかた 子どもを捨てたわ」
その子どもは愛自身だったのだ。知ってからも誰にもそれは知らせなかったのだ、という。それでも希詩子は理想だ、とも。
そしてさらに接近する二人に、希詩子は気持ちを高ぶらせる。宇多はそんな彼女を見て、愛を止めようとする。「あのかた あなたの お兄さまですから!」愛は征の父親と希詩子の間に生まれた子どもだったのだ。追って行こうとする夏子から、その事実を征も知らされる。捕まえた愛を征は抱きしめる。愛は彼の胸の中で泣く。
その時、強制執行命令が出た、と小屋を壊す工事の人々がやってきていた。征は必死で抵抗する。彼らはひとまず戻って警察を呼ぼう、と戻っていく。
そして征は小屋に火をつける。彼を追って小屋の中へと飛び込んでいく愛。征はそれを助け出すが、彼女を渡した瞬間、屋根が崩れ落ちてきた。
10年前も、真相は分からなかった、と希詩子は言う。事実を知った彼女に希詩子は一緒に住んではくれないのか、と問いかける。「でも わたしの父と母は札幌で待っているのです」
この場所は、生きるには哀しすぎるのだ。
私的考察
これも文芸だ〜
この時期は思いっきりそうですな。だからやっぱり昔はよく判らなかった。
でも「ただ可愛いだけではない」主人公がちゃんと生きてるな、とは思うのだった。