この星の夜明け
集英社YOUコミックス @1997.5.28初版 A1998.5.27初版
メディアファクトリーMF文庫 2004.2.19初版
@この星の夜明け
「昭和11年、高等文官司法科試験はついに女子にその門をひらいた」
高等師範学校(高等女学校を卒業したあたりの学歴で入学できる教師資格を取るための学校。ここで免許を取ると、高等女学校の教員資格ができる)の2年・19歳の夏木 旭はその知らせをもって叔母・ともえ(えは旧仮名)の元へ駆け込む。彼女は姦通・傷害の罪で拘置されている女学校時代の友人を救いたい一心だった。
友人の長谷尾小枝は、女学校卒業と同時に男爵家に嫁ぐが、夫には最初から愛人3人も居た。その現実に幻滅し、また、心を寄せる秘書との駆け落ちを拒まれ折檻を受け、彼女は逆上して夫に斬り付ける。結果彼女は逮捕され、離縁され、拘置所に留められている状態だった。
だが司法科試験の難しさは群を抜いている。その上当時は、女子と男子の教育のレベルが違いすぎていた。付け焼き刃で旭が太刀打ちでる試験ではなく、判事をしている叔父からの特訓を受けはしたが、一次をかすめすらしなかった。せめて叔父の力を借りて小枝に温情判決を、と思ったが、彼女は絶望の中で亡くなってしまう。
婿をとって家を守ることを当然の様に思っていた母も、旭の熱意に負けて、法律の勉強をすることを許す。高等師範をやめ、M大の聴講生として2年、そしてその上2年を叔父に師事し、旭は昭和15年秋、最年少・23歳で高等文官司法科試験に合格した。
Aその声を待ってる
昭和16年初夏、弁護士試補として叔父の紹介の法律事務所に通っている旭。そんな彼女の元に、兄・泉が戻ってくる。病弱な泉は普段は鎌倉の療養院に居て、時々実家に戻ってくるのだが、その帰り道に少女を拾ってくる。
その少女・ふみ子は旅館で住み込みで働いていたが、「旦那様」にお酌を頼まれた時に乱暴をされかけ、それを拒み、突き飛ばして店を飛び出して来たのだと言う。事情を聞いて憤った旭は、「法律に明るい介添え」という立場で彼女の「旦那様」に行為が「猥褻ノ罪」に当たることを話し、ただクビにされそうだったふみ子を良い条件で辞めさせることにさせる。
B美しき妻へ
昭和16年夏、旭に婿を取らすことはあきらめていない母は、お見合いの話を持ち出す。会ってみた永島氏は、兄・泉と何処か似た、いい感じの青年だった。
だがしかし彼が旭に会ったのは、実は結婚に反対されている女性との仲を何とかしたい、という法的な相談をしたかったからだった。
相手の女性は、夫が戦死。その兵役期間に永島に会って、現在妊娠6ヶ月だという。法的には、懐胎の計算上は「姦通」にあたり、このままでは結婚は難しいのだという。10日後には召集される彼は、「妻」を守ってやってほしい、と旭に頼み込む。
旭は双方の親元に乗り込み、法的なこと・感情に訴えること取りませ、事態は姦通罪まで及ばす決着する。
Cついてきなさい
昭和16年秋。法律事務所に出勤した旭を、弁護士と信じた大樹伯爵家の麻耶子嬢は連れ出す。
彼女は親族と交戦中だった。未成年の彼女を、力づくで後見人の叔父が、自分の息子と結婚させようとしているのだ。自分が当主であり、他の誰にもその権利を冒させることは許さない、という態度の彼女に旭は納得し、乱暴な訴訟を起こし、とりあえず彼女の誕生日まで、向こうの親権を停止させる様に持ち込む。「敵」の追っ手を何とかまいて、その訴訟は成功し(取り下げることを前提とした訴訟だったが…)麻耶子は首尾良く二十歳の誕生日を迎え、家を相続したのだった。
だがお誕生日の祝いへ誘う麻耶子は、旭に「きっとあぶない弁護士になる」と予言する。そしてそれを自覚している旭であった。
D天使の冬
昭和16年12月。雪がちらつく街で、ヤミの食品を横取りして追われている少年を旭はかくまう。
だがその少年の行き先は、「橋の下」。かつて世話になった中学校の教師の家族の手助けをしていたのだ。かつての恩師は、反戦思想で特高に連れて行かれて、留置場で死んだのだという。
ところがそこでボヤ騒ぎが起こり、彼を追っていた特高の刑事は顔を会わせる羽目になってしまう。教師のメモ等を持っているのではないか、という疑いで連れて行かれそうになる少年を、旭は「そんな理由で少年を拘束できない」と突っぱねる。
そして旭自身、「思想にもなににもとらわれず、餓えたひとを、非力なひとを、子どもを守る者になりたい」と思う。
E花色の闇
昭和18年2月。晴れて弁護士登録をして半年の旭は、その頃雑誌の法律相談を受け持っていた。「経験が浅く・女」である彼女にはなかなか実際の弁護の仕事が回って来ない。
だがある日、そんな彼女の雑誌の相談を見て、名指しで依頼する女性が居た。品川佳代子というその女性は、離婚の訴訟を起こすつもりだと言う。理由は夫の不貞。しかもその夫は、強姦の罪で訴えられているという。その相手はその時に格闘・足の骨折をしたという。夫の立場は悪かった。
しかしその相手・西村千鶴に証人の依頼に出かけた時、行方が知れなくなっていて、最近「主義者」として追われ掛かっている友人・中屋敷和子が同居していることを知る。和子は旭の雑誌での回答を見て、千鶴に告訴を勧めたのだという。
そして裁判が始まったが、4月の最後の公判の時に、夫と対峙した佳代子の口から出たのは、旭との打ち合わせと違う、夫ではなく、相手の千鶴を貶める言葉だった。彼女がこの離婚の裁判でしようとしていたのは、自分の離婚を認めさせることではなく、夫の罪を「強姦」ではなく「和姦」として、無くさせようとすることだったのだ。普段の家庭でも、離婚の件に文句をつける親戚に「酷薄な妻」を演じ、それでも夫を助けようとする彼女の芝居だったのである。
離婚裁判は無効になったが、夫は佳代子の気持ちにうたれ、「待っててくれ」と格子越しに言う。
自分自身の恋愛とは程遠い旭にとって、生身の恋愛絡みの事件として、一つの大きな経験だった。
私的考察
…1巻に巻数がついていなくて、2巻が出るのがひどく遅かったので、「花色の闇」はお蔵入りか!と気を揉んだ作品。
時代は昭和11年〜18年。太平洋戦争の始まる頃で、よーすんに国民の「暗黒時代」だったはずなんだけど、まだはじめは割と戦争が直接人々の生活には降りかかってはこなかったんだな、という書き方をされている。(最後の頃にはかなり厳しくはなっているけど)
背景的なことを言ってしまえば、まず当時は学校制度そのものが、男女を厳しく分けていた訳だ。小学校までは同じ。ぎりぎりで「小学校」かな。16年あたりから「国民学校」になって、その上が男女とも「中等学校」になったけど。当時は無論「高等女学校」。尋常小学校6年を卒業した人が、だいたい5年学ぶ場所でした。で、女子にはその上には「専門学校」しか無かった訳だ(「女子大」は専門学校の扱い。女医さんも「女医専」で学ぶ)。この時代だと、よーやく帝大の一部が、女子の聴講を許可したけど、基本的には、女子には専門学校より上の教育・研究機関は用意されていなかった訳だ。しかも同じ「中等学校」でも、男子の「中学校」と女子の「高等女学校」では、カリキュラムにもずいぶんな差があり、内容もレベルも違ったという。(だいたい「裁縫」とかに時間とられていては進度も変わってくるでしょ。田辺聖子さんの「欲しがりません勝つまでは」では、4年修了で女専入試に取り組んだ田辺さんが、男子の参考書・問題集を使って勉強したけどそれがずいぶんと難しかった、という記述があった)
つまりまず制度で囲い込んで、その中でその中の「必要」で囲い込んで、とにかく女子には「実力的に劣る」様にさせていたような感じもある。
その中で自分の進む道を決めたとしたら、それは強烈なエネルギーではないか、と思うのだ。
1話はまあ背景をぽーん、と前に出していることと、夫が愛人を持つことは容認されていて、妻がそれを行うと「姦通」とされていた「常識」を描いている。
2話はセクシャル・ハラスメントかな。
3話は結婚と離婚と子供の関係…ちと苦しいな。
4話は相続の問題。
5話は少年保護のことをはらんでいる。
6話は…ちとややこしいのだが、夫の不貞と、だがそれより深い感情の問題が入り組んでいる。
この調子で、現在にも通じる女の不利点をがしがし挙げて行って欲しかったな、とは思う。
でもあとがきで、「作者の心の内では未完です」とあるから、いつか別の形で出ることを期待しましょ。