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懐古的洋食事情(2)東京ハヤシライス異聞
集英社YOUコミックス
1992年1月28日発行


東京ハヤシライス異聞(YOU1990.3)

 大正13年。女流歌人のるい子さんはつつましいながらも「自由恋愛」で結婚した。相手は国文学者の早志新平さん。両親は既に亡い家庭で、居るのは大学生の弟だけ。
 ごはんも嫁ぐ前にちょっと習っただけのるい子さんにとっては、この毎日の食事がまず大変なことに。
 ご飯の水加減・天ぷらの衣・くずれたオムレツ・味がいまいちの牛鍋…さまざまな失敗を、義弟の総二に口をはさまれつつも「大丈夫」という口癖のもと、何とかやっていく。
 しかし毎日献立を考えて買い物に出かけていたので、遂に給料日前のある日、「今月分」を使い切ってしまう。何とか4日間はある材料でしのいだが、最後の日、とうとう材料が細々したものしかなくなってしまう。そこでるい子さん「まとまらないものならまとめてしまおう」と一緒にフライパンで炒め始める。それをちょっとしたスキに焦がしてしまうのだが、総二の一言で、肉も一緒に炒めて〜とソースやトマトケチャップを加えてみる。すると今までにはなかった不思議な美味しい味が…
 そしてそれをご飯にかけて食卓へ。細々した材料だけではなく、しっくりいかなかったるい子さんと総二の仲もとりもったその料理はこの家の名前をとって、「ハヤシライス」と名付けられた…


ビスケット浪漫す(YOU-ALL1990.VOL.2)

 昭和2年、盆の頃。
 神奈川・逗子の海辺の村に、深草子爵の屋敷に奉公に出ていたもえが戻ってきて、幼なじみの竜介は喜ぶ。
 しかしもえは宿下がりしてきた訳ではなく、鎌倉山の九門京也のアトリエに専属のメイドとして住み込むことになっただけだ、という。仕事ぶりを見てほしい、ともえは竜介に言って鎌倉山へと行ってしまう。
 村の在る七里ヶ浜のちょうど海をはさんで向こう側にある鎌倉山。でかけてみると、そこはモダーンなライト風のアトリエ、そこには「知ってるどの女衆より綺麗」な先生。あまりにも違いすぎる環境に竜介は面白くない。今度海に連れていく、と約束もしつつ、まさかもえが先生を…と邪推までしてしまう。
 二度目の訪問の時に、もえは食の細い先生のために工夫したビスケットを焼いたところだった。それをまた実に誉めることから竜介が面白くない。ところがそこで、海に出よう、と先生は二人を誘う。
 さてその海で、ちょっとした手違いで乗っていた小舟から大きな船に先生が移る時に、櫓が流されてしまう。しかしそれは二人だけにしてやろう、という先生の計略だった。離れてみて冷静になった竜介は、もえがあくまでメイドという仕事に誇りを持って先生の世話をしている、それを見てもらいたかった、ということを聞く。
 そして二人は夕暮れの光の中で、持ってきたビスケットをかじるのであった。


シチュー・ラブソデー(YOU-ALL1990.VOL.3)

 昭和3年、秋のはじめ。銀ブラしてた中川蕗子さんが初めて会った岡倉喜一さんに口説かれたのは、彼が他の女性とのランデヴーの最中だった。同伴の女性を怒らせてしまった喜一さんは、そのまま「明日のお昼」を一緒にしてほしい、と蕗子さんを更にくどく。
 高等女学校を卒業して、家事手伝い中のぼーっとした性格の蕗子さんは、あららららららららという間の展開になかなかついていけない。逆に家族のほうが、相手が財閥の御曹司ということで妙に浮き上がる。とは言え舞い上がってるのは母だけで、父はしびあだが。
 翌日出向いたレストランで、蕗子さんは喜一さんが一人の女性に、ひどく切ない視線を向けているのが判る。それは彼が決して届かない相手だった。その出現で急に盛り上がる蕗子さん。レストランのシェフに聞いた作り方で、「シチューをごちそうする」と喜一さんに宣言する。
 しかし出来上がったはいいが、なかなか彼からの連絡は来ない。実は喜一さんは付き合っていた女性一人一人に別れを告げていたのだ。とうとうやってきた蕗子さんのお宅で、家族と一緒に、既に具が煮くずれてしまったシチューは美味しく食されるのだった。


ビーフステーキ ア・ラ・モード(YOU-ALL1990.VOL.4)

 ちょっと前振り。大正の頃、深草家の令息令女計4人は、嵐の夜に何の食物の蓄えも無い別荘に取り残される。いくら育ちのいい人々でも、餓えには勝てぬ、と末の明之くんは遠くに見えた円城家の別荘へと走り、そこで令嬢。薫子にビーフステーキと付け合わせの調理法を教わって、兄姉達に披露する。
 それ以来、「料理」は彼の秘密の趣味となった…
 そして昭和2年晩秋。子爵以外の兄は独立し、姉達も嫁いだ深草家。とある日、ばあやも執事も居ない日が不意にやってくる。それが彼の狙い目。シェフやメイドに少し臨時収入を掴ませ、明之くんは念願の趣味の時間を手に入れる。
 ところがそこへ、兄子爵が女性を連れて帰ってくる。その女性が、あの時の薫子だった。現在では柏木夫人となった彼女は、当時の印象と違い、煙草をふかした有閑マダム、という感じであった。ショックを受ける明之くん。子爵はそんな彼の格好を見、食事を作らせる。そして明之くんはビーフステーキを作る。教えてもらったのよりもずっと凝った料理を。その料理は、彼女に若い頃の気持ちを思い出させ、酒と煙草と夜遊びの現在の生活を立ち直させることとなる。
 …しかし、深草家には失恋した兄弟が残された…


コッヒー・ハウス・ヒル(YOU-ALL1991.VOL.11)

 大正9年・秋。横浜の山手から根岸の丘をたどって海に至る「外国人遊歩道」その中ほどにあるコッヒー・ハウス。訪ねてきた海軍少尉・函南悟郎は出てくるそこの娘・らん子とぶつかる。幼なじみの彼女は、このコッヒー・ハウスのマスターがその昔跡継ぎのためのもらい子だった。しかも男の子と間違えて…それと知ったらん子は「ぐれてみなくちゃ格好がつかないじゃないか」とハマの女愚連隊たちとも付き合う様になる。
 さてそんな仲間と坂でたむろしていたらん子の前に、店を目指して上ってくるドイツ人が現れる。ハンス・シュトルムと名乗るその青年は、実は前の経営者の娘と、現在のマスターの間に生まれた子だった。日清戦争の時に前の経営者はドイツへ妻と娘を連れて戻ってしまった。その後に生まれた息子だという。家族が亡くなり、大戦(第一次世界大戦)が終わったので、日本へ来たのだ、と。
 そしてハンスの態度に最初は怒っていたらん子だったが、彼の入れるコーヒーとその美味しさから、「呑まずに嫌っていた」店とコーヒーのことを知り、「これから勝負しよう」とハンスに申し入れる。
 その結果、悟郎の失恋も決定的になるのだが…

 

私的考察

東京ハヤシライス異聞
 知的のーてんきなるい子さんがいい味です。そしてそういう人には、頑なっぽい人はだいたい最後には溶かされてしまうんだよなー。しみじみ。
 ちなみにるい子さんは本編では「女たちの会」の参加者である「歌人の橋詰るい」さん。…こういう人だったんですね。
 これは結構後で「こんなんかなー」と自分で料理してしまいました。果たしてソースとケチャップでそういう味になるのかは謎ですが、きっと当時のケチャップや、ウースターソースだったら大丈夫だったのかも(笑)。今の添加物ばりばりのではなく…

ビスケット浪漫す
 これも何となく「う、ビスケットくいてえ」となった話。何かあの「さくっ」って触感が。
 そしておそらく本編出演者の中でこの番外最多出場の九門京也。この時にも大きな顔して出てます。絶対市川せんせいのお気に入りに違いない…
 もえさんは本編では格好はそのままですが、やっぱり「脇役顔」してます。もっとあっさりしてる。しかしこんなに「田舎の漁業のうち」からでも子爵家へ奉公に行く、というと…どういう関係があるんだろ…

シチュー・ラブソデー
 これも「作りたくなった」作品。
 ここでも可愛いおぼけなヒロインが活躍してます。筋金入りですね。この蕗子さんは本編では、6巻の宮家のパーティに出てますが、「ピンクの服がお似合い」と深草夫妻に言われてぼーっとしてしまってます。
 でもまあこの喜一さんのよーないい男が「奥さん」にしておくには一番のんびりできていい存在かも。
 ちなみにここでは咲久子さんが「桜町伯爵夫人」でぼん、と出てきます。

ビーフステーキ ア・ラ・モード
 あちこちに使われる深草家ですが、ここでは末の明之くんのエピソード。子爵もずん、と出てきます。全く。
 しかしどーもこのきょうだい、明之くんに関しては、庶子ということは聞いてない様な気がするんですねえ。このきょうだいの仲の良さといい、後で静子さんが「末の弟を生むとすぐに母は亡くなった」というあたり。
 それにしても、シェフとメイド達(…最低7人は居たぞ)に「今晩のレストランとカフェー代」をさっと明之くんが渡せるあたり、この家の豊かさが判るなあ…はあ。

コッヒー・ハウス・ヒル
 1巻2巻に出てきた函南悟朗の若い頃ですが、さすがにナレーターになっていると、本編のごつい顔ではなく、少年顔になってますな(笑)。
 そんでもって、ハマの女愚連隊が、あの長い、裾がつぼまったスタイルというとこがいいですね〜



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